管理組合には、長期修繕計画という書類があります。
理事になって初めて手に取る方が多いと思います。分厚く、表が並んでいて、読むのに気が重い書類です。
ただし、見るべき場所は限られています。 そして、そこを見れば資金が足りるかどうかが分かります。
何が書かれているか
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 建物の概要 | 戸数、延床面積、階数、築年 |
| 推定修繕工事項目 | 何を修繕するか(外壁、防水、給排水など) |
| 修繕周期 | それぞれを何年ごとに行うか |
| 推定修繕工事費 | それぞれにいくらかかる見込みか |
| 収支計画 | 積立金の収入と、工事による支出の推移 |
理事が最初に見るべきなのは、最後の収支計画です。
ここに、「何年の時点で、残高がいくらになるか」が書かれています。マイナスになる年があれば、そこが問題の起点です。
国土交通省のガイドライン
長期修繕計画の作り方については、国土交通省が「長期修繕計画作成ガイドライン」を示しています。
- 計画期間は、大規模修繕工事を2回含む30年以上とすることが推奨されています(従来は25年以上)
- 一定期間ごとの見直しが必要とされています
期間が30年以上とされているのは、2回目の工事まで見通さないと資金計画が立てられないためです。1回目だけを見た計画では、2回目で足りなくなります。
なぜ見直しが要るのか
計画は、作った時点の前提で組まれています。 その前提は、時間とともにずれます。
| ずれる要素 | 内容 |
|---|---|
| 工事費 | 資材や人件費が変動する |
| 修繕周期 | 実際の劣化が、想定と違う |
| 積立金の収入 | 値上げが実行されていない |
| 駐車場収入 | 空きが増えて減る |
| 工事の範囲 | 想定外の劣化が見つかる |
1番目と3番目が組み合わさると、差が急速に広がります。 支出の見込みが上がり、収入が計画どおり増えていない状態です。
見直さないまま年数が過ぎると、工事の直前に不足が発覚します。 そのときには、選べる手段が限られています。
どこを見るか
理事として確認するのは、次の5点です。
1. 計画がいつ作られ、いつ見直されたか2. 収支計画で、残高がマイナスになる年があるか3. 前提としている工事費が、いつ時点のものか4. 修繕周期が、実際の建物の状態と合っているか5. 積立金の額が、計画どおりに増えているか
1番目を最初に見てください。 10年以上見直されていない計画は、現在の判断材料にはなりません。
5番目も重要です。 段階的に増額する前提で作られている計画で、その値上げが実行されていなければ、収支計画は成立していません。
見直しの進め方
見直しは、理事会だけで行う必要はありません。
- 管理会社に作成・見直しを依頼する
- 専門の会社やマンション管理士に依頼する
- 修繕委員会で内容を検討する
依頼する場合、費用がかかります。 ただし、不足に気づかないまま工事の時期を迎えるより、はるかに小さい負担です。
見直しの結果は、総会で報告してください。 資金が足りないことが分かった場合、その事実を共有することが、値上げの合意形成の出発点になります。
計画と実績を並べる
見直しのときに、必ず実績と並べてください。
- 前回の工事で、実際にいくらかかったか
- 計画上の金額と、どれだけ差があったか
- 何が想定外だったか
この比較が、次の計画の精度を上げます。 そして、前回の記録がないと、この比較ができません。
今回の工事の記録を残すことは、次の計画のための作業でもあります。
理事が引き継ぐこと
長期修繕計画は、理事の任期を大きく超える書類です。
- 計画の最新版がどこにあるか
- 次の見直しはいつか
- 現在の残高と、計画上の残高の差
- 検討中の課題(値上げ、工事時期など)
この4点を、次の理事へ引き継いでください。 引き継がれないと、毎年ゼロから確認することになります。
※ 本記事は公表資料をもとにした一般的な整理です。計画の内容と見直しの方法は、建物の条件によって変わります。
出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」/国土交通省「令和5年度マンション総合調査」(2024年6月公表)
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 長期修繕計画 | 将来の修繕内容・時期・費用を見通した計画。 |
| 推定修繕工事項目 | 計画上、将来行うと想定している工事の項目。 |
| 収支計画 | 積立金の収入と工事の支出、残高の推移を示した表。 |
| 計画期間 | 計画が対象とする年数。大規模修繕2回を含む30年以上が推奨される。 |
| 段階増額積立方式 | 当初を低く設定し、段階的に引き上げていく積立の方式。 |
| マンション管理士 | マンションの管理に関する助言を行う国家資格者。 |