「工事は数か月で終わる」と聞いて、その感覚で計画を立てると間に合いません。
大規模修繕で時間がかかるのは、工事ではなく、そこに至るまでの合意形成です。
そして、日程を決めているのは総会の開催時期です。ここを理解すると、逆算の起点が見えてきます。
段階と、やること
| 段階 | 主にやること |
|---|---|
| ① 準備 | 長期修繕計画の確認、積立金の残高確認、修繕委員会の設置 |
| ② 建物診断 | 劣化の状況を調べ、必要な工事の範囲を把握する |
| ③ 発注方式の決定 | 責任施工か設計監理か、管理会社に任せるかを決める |
| ④ 仕様の決定 | 何をどこまで行うかを固める |
| ⑤ 施工会社の選定 | 複数社から見積を取り、比較する |
| ⑥ 住民への説明 | アンケート、説明会 |
| ⑦ 総会の決議 | 工事の実施と予算を議決する |
| ⑧ 契約 | 施工会社と契約を結ぶ |
| ⑨ 工事 | 着工から完了まで |
| ⑩ 引渡し・アフター | 完了検査、記録の保管、点検 |
⑨だけが工事です。 ①〜⑧はすべて準備で、ここに大半の時間がかかります。
総会が、日程を決めている
区分所有法では、管理者は少なくとも毎年1回、集会を招集しなければならないとされています。多くの管理組合では、通常総会は年に1回です。
つまり、決議の機会は年に1度しかありません。
- そこに議案を間に合わせられなければ、1年待つことになる
- 臨時総会を開くことはできるが、招集の手続きと出席の確保が必要
- 決議が通らなければ、次の総会まで進まない
この構造が、大規模修繕の日程を決めています。
総会に議案を出すには、その前に見積の比較も、説明会も、資料の作成も終わっていなければなりません。
総会の日から逆算して、いつ何を始めるかを決めてください。
理事の任期をまたぐ
理事の任期は1〜2年が一般的です。そして、大規模修繕の検討はそれより長くなります。
つまり、検討の途中で理事が交代することが前提になります。
- 引き継ぎができていないと、検討が振り出しに戻る
- 前の理事が集めた資料が、どこにあるか分からなくなる
- 「なぜその案にしたのか」を、誰も説明できなくなる
だから修繕委員会を設け、任期をずらすという設計が要ります。 理事と同時に全員が交代する体制では、検討が続きません。
そして、記録を残すことが実務上の最優先事項になります。
各段階で、時間がかかる理由
② 建物診断調査そのものは短期間ですが、報告書を読み、内容を理解する時間が要ります。委員会で共有し、質問し、範囲を検討する。ここを急ぐと、判断の根拠が弱くなります。
⑤ 施工会社の選定複数社に見積を依頼し、それぞれが現地を見て、見積を作る。この往復に時間がかかります。 そして、比較して質問し、修正してもらう。1回では終わりません。
⑥ 住民への説明アンケートで意見を集め、説明会を開き、出た質問に答える。反対意見が出れば、その対応も要ります。 ここを飛ばして総会に進むと、決議が通りません。
早く動くほど、選択肢が増える
準備の期間が短いと、次のことが起こります。
- 建物診断の結果を検討せず、提案された範囲で進める
- 複数社を比較する時間がなく、1社の見積で決める
- 住民への説明が不足し、総会で反対が出る
- 資金が足りないと分かっても、値上げの合意が間に合わない
- 総会に間に合わず、1年先送りになる
4番目と5番目が、特に痛手です。 積立金の値上げは合意形成に時間がかかるため、工事の直前に持ち出しても間に合いません。
いつ動き始めるか
長期修繕計画で予定されている時期の、数年前が目安になります。
そのころに、次を確認してください。
- 長期修繕計画で、次の工事はいつの予定か
- 積立金の残高は、計画どおりか
- 前回の工事から何年経っているか
- 建物に、気になる劣化の兆候はないか
この確認だけなら、費用はかかりません。 そして、不足や遅れが見つかれば、対応する時間が残ります。
逆に、確認しないまま予定の年を迎えると、そこから全部を始めることになります。
理事として引き継ぐこと
任期の終わりに、次の理事へ伝えてください。
- 現在どの段階にいるか
- 次にやることは何か
- 検討済みの内容と、その資料の場所
- 決まっていないこと、保留にしていること
4番目が抜けやすい部分です。 「まだ決まっていない」ことこそ、引き継がないと同じ議論を繰り返します。
※ 本記事は一般的な整理です。必要な期間は建物の規模と組合の体制によって変わります。
出典:建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)/国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン」
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 通常総会 | 年に1回開催される、区分所有者による定期の集会。 |
| 臨時総会 | 必要に応じて、通常総会とは別に開催される集会。 |
| 建物診断 | 建物の劣化の状況を調べる調査。 |
| 修繕委員会 | 大規模修繕の検討を行うために設ける組織。 |
| 発注方式 | 責任施工方式、設計監理方式など、工事を発注する形式。 |
| 区分所有法 | マンションの権利関係と管理について定めた法律。 |