見積書を開くと、工事項目が並んでいます。それぞれが何のための費用なのかが分かると、金額の意味が見えてきます。
そして重要なのは、項目によって金額の決まり方が違うという点です。
面積で決まるものは、事前に確定します。 劣化の量で決まるものは、足場を組んでからでないと確定しません。
主な工事項目
| 項目 | 何をするか | 何で決まるか |
|---|---|---|
| 仮設工事 | 足場、養生シート、仮設事務所 | 建物の外周と高さ、期間 |
| 下地補修 | ひび割れ、欠損、浮きの補修 | 劣化の量(変動する) |
| 外壁塗装 | 洗浄、下塗り、上塗り | 塗装する面積 |
| タイル補修 | 浮きの調査と張り替え、注入 | 浮きの量(変動する) |
| シーリング | 既存の撤去と打ち替え、増し打ち | 目地の総延長 |
| 防水 | 屋上、バルコニー、開放廊下 | 防水する面積 |
| 鉄部塗装 | 階段、手すり、扉、設備 | 塗装する面積 |
| 建具・金物 | 交換や補修 | 数量 |
| 諸経費 | 現場管理費、一般管理費 | 工事全体の規模 |
このうち、2番目と4番目だけが性質が違います。
面積で決まる項目
外壁塗装、防水、シーリング、鉄部塗装は、建物の形状から数量が決まります。
- 図面と現地の実測で、面積や延長を算出できる
- 見積の段階で、数量が確定している
- 各社の数量が、大きく違うことは少ない
各社で数量に差がある場合、拾い方の前提が違います。 どこまでを対象にしているかを確認してください。
単価の差は、材料のグレードと工法の違いです。塗料の種類、防水の工法、シーリング材の種類。仕様が違えば単価も違います。
だから、比較するには仕様を揃える必要があります。 単価だけを比べて安いほうを選ぶと、仕様が落ちているだけということがあります。
劣化の量で決まる項目
下地補修とタイル補修は、劣化の量に比例します。 そして、その量は足場を組んで調査するまで確定しません。
- ひび割れの長さ
- 欠損の面積
- タイルの浮きの枚数
建物診断である程度は把握できますが、地上や部分的な調査では限界があります。 全面に足場を組んで打診してはじめて、正確な量が出ます。
したがって、見積の段階では想定の数量です。
ここが、追加費用の最大の原因になります。
実際の数量で精算するのか、想定の数量で固定するのか。
想定より少なかった場合に減額されるのかも、あわせて確認してください。
仮設工事の比重
足場は、何かを直す工事ではありません。 それでも金額が大きくなります。
そして、工期が延びればリース期間も延びます。 天候による遅れが、足場の費用に跳ね返る構造です。
足場が必要な工事をまとめて行うのが合理的なのは、この費用を一度で済ませるためです。工事を減らして次回に回すと、次回また足場代がかかります。
公的な調査の工事内訳
国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」では、大規模修繕工事の工事内訳についてもデータが整理されています。戸数規模別の集計も公表されています。
自分と同規模のマンション群のデータと比べることで、相対的な位置づけを確認できます。
ただし、この調査の工事金額は直接工事費であり、共通仮設費・現場管理費・一般管理費・消費税は含まれていません。見積の総額と直接比べることはできません。
各社の見積を、項目ごとに並べる
総額だけを比べないでください。 項目ごとに並べると、差がどこにあるかが分かります。
| 差がある場所 | 考えられる理由 |
|---|---|
| 数量が違う | 拾い方の前提が違う、範囲が違う |
| 単価が違う | 材料のグレード、工法が違う |
| 項目が無い | その工事を含んでいない |
| 諸経費の比率が違う | 計上の方法が違う |
3番目が最も注意が要ります。 ある会社の見積にだけ項目がない場合、安いのではなく、やらないだけです。
差が大きい項目については、各社に理由を聞いてください。 説明できる差は判断材料になり、説明できない差はそこに疑問が残ります。
減らすなら、どこから
足場が要らない工事から検討してください。
足場を組む機会にまとめて行うべき工事を次回に回すと、次回また足場代が発生します。 削った額より、余分にかかる額のほうが大きくなり得ます。
そして、削る判断には根拠が要ります。 建物診断の結果にもとづいて「今回は不要」と判断したのか、単に予算の都合なのか。後で住民に説明できる形にしてください。
※ 本記事は公表資料をもとにした一般的な整理です。工事の項目と費用は建物の条件によって変わります。
出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 仮設工事 | 工事のために一時的に設ける設備の工事。足場や養生など。 |
| 下地補修 | 仕上げの下にあるコンクリートのひび割れや欠損を直す工事。 |
| 打診調査 | 外壁を打診棒などで叩き、浮きや剥離を調べる調査。 |
| シーリング | 目地やサッシまわりの隙間を埋める材料。 |
| 直接工事費 | 実際の工事にかかる費用。材料費と施工の手間。 |
| 精算 | 実際の数量が確定した時点で、金額を確定させること。 |