積立金が足りない。しかし、工事を先送りできる状態ではない。
このとき検討されるのが、管理組合としての借入です。
「管理組合がお金を借りられるのか」と驚かれることがありますが、そのための仕組みがあります。
仕組み
管理組合向けの融資制度があります。住宅金融支援機構が扱う、マンションの共用部分のリフォームを対象とした融資などがこれにあたります。
民間の金融機関でも、管理組合向けの商品を扱っている場合があります。
共通する特徴
- 借りるのは管理組合(区分所有者個人ではない)
- 返済の原資は、将来の修繕積立金
- 総会の決議が必要になる
- 管理規約に、借入に関する定めが必要な場合がある
具体的な条件や金利は、制度と時期によって変わります。 検討する際は、必ず取扱機関に直接確認してください。
返済の原資は、将来の積立金
ここが最も重要な理解です。
借入をしても、返すのは組合の資金です。つまり、将来の修繕積立金から返済していくことになります。
そして、返済の分だけ月々の負担が増えます。
- 現在の積立金の水準では、返済に足りない場合がある
- その場合、実質的には値上げとセットになる
- 借入は、値上げを避ける方法ではない
「借りれば値上げしなくて済む」という理解は、正しくありません。
支払いの時期を後ろへずらす方法であり、負担そのものが消えるわけではありません。
返済が続いている間も、次の修繕に向けた積立は必要です。
長期修繕計画に、返済を織り込んだうえで収支を見てください。
それでも借入が有効な場合
次のような状況では、合理的な選択肢になります。
| 状況 | 理由 |
|---|---|
| 劣化が進んでおり、先送りできない | 工事を予定どおり行える |
| 一時金への反対が強い | 一度に大きな負担を求めずに済む |
| 値上げの合意に時間がかかる | 工事と資金調達の時期を分けられる |
| 世帯間の負担を平準化したい | 後から入居する所有者も、返済を分担する |
4番目は、公平性の観点です。
一時金で徴収すると、その時点の所有者だけが負担します。 工事の効果は、その後に購入した所有者も受けます。
借入をして長期で返済すれば、将来の所有者も負担を分担することになります。
どちらが公平かは考え方によりますが、この論点があることを知っておいてください。 総会での説明の材料になります。
検討するときに確認すること
1. 借入が可能な条件を満たしているか(積立金の水準、滞納の状況など)2. 管理規約に、借入に関する定めがあるか3. 必要な決議の種類4. 返済の期間と、月々の負担5. 返済期間中の、次の修繕への備え6. 繰上返済の可否
2番目を先に確認してください。 規約に定めがない場合、規約の変更が必要になることがあります。 そうなると、決議の要件も手続きも変わります。
5番目が、最も見落とされます。 返済をしながら、次の修繕の資金も貯める。この両立ができるかを、長期修繕計画で確認してください。
決議と手続き
総会の決議が必要です。
- 借入を行うこと
- 借入の金額と条件
- 返済の計画
- 積立金の額の変更(必要な場合)
これらを、議案として整理してください。
手続きには時間がかかります。 申込、審査、契約。工事の日程から逆算して、余裕を持って動いてください。
そして、この手続きも理事の任期をまたぐ可能性があります。 進捗を記録し、引き継いでください。
他の選択肢と、並べて示す
総会では、借入だけを提案しないでください。
- 値上げした場合の、月々の負担
- 一時金にした場合の、一世帯あたりの負担
- 借入をした場合の、返済期間と月々の負担
- 工事を縮小した場合の、削る範囲
並べて示すと、判断がしやすくなります。
「借入しかない」という提案の仕方は、反発を招きます。 選択肢を示したうえで、なぜこれを推すのかを説明してください。
- 返済の原資が、将来の積立金であることの説明が不足していた
- 返済期間中の、次の修繕への備えを考えていなかった
- 管理規約に定めがなく、手続きが遅れた
- 手続きに要する期間を、工事の日程に織り込んでいなかった
- 他の選択肢と比較せずに、借入だけを提案した
※ 本記事は一般的な整理であり、金融商品の説明や助言を行うものではありません。制度の内容と条件は、時期と取扱機関によって変わります。実際の検討は、取扱機関および専門家にご確認ください。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 修繕積立金 | 将来の修繕に備えて、区分所有者から毎月集める資金。 |
| 一時金 | 不足分を補うために、臨時に徴収する費用。 |
| 繰上返済 | 予定より早く、借入金の一部または全部を返済すること。 |
| 管理規約 | 管理組合の基本的なルールを定めたもの。 |
| 長期修繕計画 | 将来の修繕内容・時期・費用を見通した計画。 |