大規模修繕には、複数の主体が関わります。 そして役割が曖昧なまま進むと、後で「誰が決めたのか」が問題になります。
特に注意が要るのは、管理会社の位置づけです。助言者なのか、受注候補なのか。両方であることもあります。
4つの主体
| 主体 | 役割 | 決定権 |
|---|---|---|
| 総会 | 議案を決議する | あり(最終) |
| 理事会 | 業務を執行し、議案を整理する | 一部あり |
| 修繕委員会 | 調査・検討・比較を行い、案を作る | なし |
| 管理会社 | 事務の代行、助言。受注側になることもある | なし |
修繕委員会に決定権はありません。 検討する場です。ここを誤ると、決議の正当性が問われます。
そして4番目が、最も整理が必要な立場です。
管理会社は、どの立場で関わっているか
管理会社の関与には、いくつかの形があります。
- 管理委託契約の範囲内での事務(総会の招集事務、資料の作成補助など)
- 助言(過去の経緯の説明、資料の提供)
- 工事の提案・見積の提出(受注側として)
- 元請として工事を受注し、協力会社が施工する
3番目と4番目に入った時点で、立場が変わります。
管理会社は、組合から管理の委託を受けている立場です。同時に、工事を受注する立場にもなり得ます。
この2つが重なると、利益が相反する構造が生じます。
建物の履歴を最もよく知っているのは管理会社です。その知見は有用です。
必要なのは、どの立場で発言しているかを明確にすることです。
委託契約の範囲を確認する
大規模修繕に関わる業務が、管理委託契約に含まれているかを確認してください。
- 含まれている → 委託費の中で対応する
- 含まれていない → 別途の費用が発生する
ここが曖昧なまま依頼すると、後から請求が来ます。
逆に、契約に含まれているのに使っていない業務もあります。委託契約書を読み直す機会にしてください。
判断が必要な場面での整理
管理会社から提案が出たとき、次を確認してください。
| 確認 | 内容 |
|---|---|
| これは助言か、提案か | 中立の情報提供か、受注に向けた提案か |
| 他社の見積も取るか | 1社のみで進めない |
| 見積の根拠は何か | 数量と単価が示されているか |
| 比較の条件を作れるか | 他社にも同じ条件で依頼できるか |
2番目が最も重要です。 管理会社の提案を検討すること自体は問題ありません。問題は、それしか見ないことです。
複数社を比較したうえで管理会社を選ぶなら、その判断には根拠があります。比較せずに決めると、後で住民から「なぜ比べなかったのか」と問われます。
議事録に、立場を書く
誰の発言か、どの立場での発言かを、議事録に残してください。
- 委員会の検討として決めたこと
- 理事会が判断したこと
- 管理会社から提供された情報
- 管理会社からの提案
4番目を「情報」と混ぜないでください。 提案は、提案として記録します。
この区別が、後の説明を可能にします。 「管理会社に言われたから」ではなく、「複数の情報を比較して判断した」と説明できる状態にしてください。
窓口を一本化する
役割を分けることと、窓口を分けることは別です。
住民から見て、どこに連絡すればよいのかが分かる状態にしてください。
| 内容 | 窓口 |
|---|---|
| 工事の内容や進捗 | 施工会社(現場の窓口) |
| 生活への影響、苦情 | 施工会社。対応が難しい場合は理事会 |
| 費用や決議に関すること | 理事会 |
| 日常の管理に関すること | 管理会社 |
これを住民に周知してください。 周知がないと、すべての連絡が理事長個人に来ます。
理事の負担を減らす
理事は無償で、任期があり、本業があります。 すべてを抱えると続きません。
- 事務作業は管理会社に依頼できる範囲を確認する
- 検討は修繕委員会に分ける
- 業者とのやりとりを、代行できる部分は依頼する
- 記録は、その場で残す運用にする
4番目が効きます。 後でまとめて議事録を作ろうとすると、負担が集中し、結局残りません。
その場で要点だけ書く。 完成度より、残っていることのほうが重要です。
※ 本記事は一般的な整理です。役割の分担は管理規約と委託契約の内容によって変わります。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 理事会 | 管理組合の業務執行を行う機関。 |
| 修繕委員会 | 大規模修繕の検討を行うために設ける組織。決定権は持たない。 |
| 管理委託契約 | 管理組合が管理会社に業務を委託する契約。 |
| 利益相反 | 一方の利益が、他方の不利益になる関係にあること。 |
| 元請 | 発注者から直接工事を請け負う会社。 |
| 議事録 | 会議の内容と決定事項を記録した書面。 |