議事録は、事務作業に見えます。 面倒で、後回しになりがちです。
しかし大規模修繕において、記録は合意形成の道具です。
理事が最終的に問われるのは「なぜこうなったのか」であり、その答えは記録の中にしかありません。
何を残すか
決まったことだけでは足りません。
| 残すもの | なぜ必要か |
|---|---|
| 決まったこと | 何を決議したかの根拠 |
| 検討したが、採用しなかった案 | 「なぜそうしなかったのか」への答え |
| その判断の理由 | 後から説明するときの材料 |
| 受け取った資料 | 判断の前提が何だったか |
| 住民から出た意見と、その扱い | 意見が検討されたことの証拠 |
2番目が最も重要で、最も抜けやすい部分です。
工事が終わった後、住民から出る質問の多くは「なぜ別の方法にしなかったのか」です。
- なぜあの会社ではなく、この会社なのか
- なぜその工法を選んだのか
- なぜ改良工事を含めなかったのか
「検討しました」では答えになりません。 何をどう比べ、どういう理由で採らなかったのか。そこまで記録があって、初めて説明になります。
いつ、誰が書くか
その場で、要点だけ書いてください。
後でまとめて作ろうとすると、負担が集中し、結局残りません。 そして時間が経つほど、議論の内容が曖昧になります。
- 会議中に、決まったことをその場でメモする
- 会議の最後に、要点を読み上げて確認する
- 数日以内に、参加者へ共有する
3番目をやってください。 認識の食い違いは、共有した時点で見つかります。 後から「そんなことは決めていない」となるのを防げます。
完成度より、残っていることのほうが重要です。 体裁の整った議事録を目指して遅れるより、箇条書きでも早く共有するほうが実用的です。
管理委託契約の範囲に含まれているかを確認してください。
ただし、内容の確認は理事が行ってください。 記録の責任は組合にあります。
保管と閲覧
区分所有法では、集会の議事録について、保管と閲覧に関する定めがあります。
管理者等が保管し、利害関係人から請求があったときは、閲覧を拒めないとされています。保管場所の掲示についても定めがあります。
つまり、議事録は求められれば見せるものです。
むしろ、見られる状態にあることを周知してください。 閲覧の方法が分かるだけで、「隠している」という疑いが減ります。
実際に見に来る人は多くありません。見られる状態にあること自体に意味があります。
保管の方法を決める
- 紙で保管するか、電子化するか
- どこに置くか(管理室、理事長宅、管理会社)
- 誰がアクセスできるか
- 年度ごとに、どう整理するか
2番目が問題になります。 理事長の自宅に置いていると、交代のたびに移動し、そのうち行方が分からなくなります。
管理室や管理会社で一元管理するのが、実務的には確実です。
電子化しておくと、引き継ぎが楽になります。 ただし、保管の義務との関係を確認してください。 原本の扱いについては、管理規約や実務の運用によります。
工事の記録も残す
議事録とは別に、工事そのものの記録が要ります。
| 記録 | なぜ必要か |
|---|---|
| 施工前・施工中・施工後の写真 | 追加費用の根拠、品質の確認 |
| 使用した材料と工法 | 次回の検討の前提になる |
| 最終的な図面 | 改修した範囲が分かる |
| 実際にかかった金額と内訳 | 次の長期修繕計画の材料 |
| 保証書 | 不具合が出たときに必要 |
| 出た苦情と、その対応 | 次回の準備に使える |
2番目と4番目が、次回に効きます。
前回何を使い、いくらかかったか。この記録がないと、次の計画は推測で作ることになります。
1番目は、工事中にしか撮れません。 契約の段階で、記録写真の提出を求めることを決めておいてください。
引き継ぎを前提に整理する
理事は交代します。 そのため、次の人が読んで分かる形にする必要があります。
- 時系列で並んでいるか
- 何の資料か、表題で分かるか
- 現在どこまで進んでいるかが分かるか
- 保留になっていることが分かるか
4番目が抜けやすい部分です。 決まったことは記録されますが、「まだ決まっていないこと」は残りにくい。
そして、次の理事が最も知りたいのはそこです。
- 後でまとめて作ろうとして、結局作られない
- 決まったことだけが書かれ、経緯が残らない
- 理事長の自宅に保管され、交代時に散逸した
- 電子と紙が混在し、どれが最新か分からない
- 工事の記録写真を求めておらず、後から確認できない
5番目は、契約の段階でしか手を打てません。 工事が終わってからでは、撮り直せません。
※ 本記事は一般的な整理です。保管と閲覧の取り扱いは管理規約と法令によります。
出典:建物の区分所有等に関する法律(区分所有法)
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 議事録 | 会議の内容と決定事項を記録した書面。 |
| 利害関係人 | その事項について法律上の利害を有する者。 |
| 管理委託契約 | 管理組合が管理会社に業務を委託する契約。 |
| 長期修繕計画 | 将来の修繕内容・時期・費用を見通した計画。 |
| 区分所有法 | マンションの権利関係と管理について定めた法律。 |