理事の任期は1〜2年です。 そして、大規模修繕の検討はそれより長くかかります。
つまり、検討の途中で交代することが前提になります。
引き継ぎができていないと、次の理事は同じ議論をゼロからやり直します。 実際に、それで検討が止まる管理組合があります。
引き継ぎが弱いと、何が起きるか
| 起きること | 原因 |
|---|---|
| 前回の議論を繰り返す | 検討の経緯が残っていない |
| 資料が見つからない | 保管場所が引き継がれていない |
| 業者との話が止まる | 誰が窓口かが分からなくなる |
| 決めたはずのことが、また議論になる | 決定の記録がない |
| 保留にしていたことが、忘れられる | 未決事項が引き継がれていない |
5番目が最も多く、最も損失が大きい形です。
決まったことは議事録に残ります。しかし「まだ決まっていないこと」は、どこにも書かれないことがあります。
そして、次の理事が最も知りたいのは、そこです。
引き継ぎ書に書くこと
A4で1〜2枚あれば十分です。 長い文書を作ろうとすると、作られません。
① 現在どの段階か
- 検討のどこまで進んだか
- 次に何をする予定か
- いつまでに何をする必要があるか
② 決まったこと
- 総会・理事会・委員会で決議した内容
- その資料がどこにあるか
③ 決まっていないこと
- 保留にしている論点
- なぜ保留にしたのか
- 誰の判断を待っているのか
④ 関わっている相手
- 施工会社、コンサルタント、管理会社の担当者
- それぞれの窓口と連絡先
- どんなやりとりをしているか
⑤ 資料の所在
- 議事録、見積、診断結果、図面がどこにあるか
- 電子データがある場合、その場所
⑥ 注意すべきこと
- 住民から出ている強い意見
- 対応が必要な個別の事情
- 期限が迫っていること
③と⑥が、引き継ぎ書の価値を決めます。 他は記録を見れば分かりますが、この2つは書かないと伝わりません。
委員会の任期を、理事とずらす
制度的な対策として、これが最も有効です。
修繕委員会を、理事会と同時に全員交代させない。
- 委員の半数ずつを交代させる
- 工事の完了までを委員会の任期とする
- 理事を退任した人が、委員として残る
3番目が実務的です。 検討の経緯を知っている人が、理事ではなくなっても委員会に残るという形です。
この設計を、委員会の設置時に決めてください。 後から変えるのは難しくなります。
引き継ぎのタイミング
任期の終わりに慌てて作らないでください。
- 記録は、そのつど残しておく
- 引き継ぎ書は、任期の終わりの1〜2か月前から準備する
- 新旧の理事が、直接会って説明する機会を作る
3番目が効きます。 書面だけでは伝わらないことがあります。30分でも顔を合わせて話すと、伝達の質が変わります。
管理会社に同席してもらうという方法もあります。組合の経緯を継続的に把握しているためです。
総会でも、経過を報告する
引き継ぎは、理事の間だけの話ではありません。
総会で、大規模修繕の検討の経過を報告してください。
- 今期に何を検討したか
- 何が決まり、何が保留か
- 次期にやること
これを毎年行うと、記録が総会議事録にも残ります。 そして、住民も検討の進捗を知ることになります。
「いつの間にか決まっていた」という不信を防ぐ効果もあります。
引き継ぐ相手がいない場合
次の理事が決まらない、なり手がいないという状況があります。
その場合、検討そのものが止まります。
- 委員会に、理事でない組合員を入れておく
- 管理会社に、経緯の記録を依頼しておく
- 外部の専門家に、継続的に関与してもらう
1番目が、最も現実的な対策です。 理事が交代しても、委員会に経緯を知る人が残ります。
- 保留にしている論点
- 業者とのやりとりの経緯
- 住民から出ている個別の要望
- 資料の保管場所(特に電子データ)
- 期限のあること(補助制度の申請、定期報告など)
5番目は、見落とすと取り返せません。 申請の期限、報告の期限。引き継ぎ書に「いつまでに何を」と書いておいてください。
※ 本記事は一般的な整理です。任期と体制は管理規約によって変わります。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 輪番制 | 順番に理事を務める方式。多くの管理組合で採用されている。 |
| 修繕委員会 | 大規模修繕の検討を行うために設ける組織。決定権は持たない。 |
| 議事録 | 会議の内容と決定事項を記録した書面。 |
| 定期報告 | 建築基準法にもとづき、建築物の状況を調査して報告する制度。 |
| 管理委託契約 | 管理組合が管理会社に業務を委託する契約。 |