1社の見積だけで判断するのは難しい。 ここまでは、多くの理事が納得します。
問題は、複数社から取ったのに比較できないという状態です。金額はばらばら、項目の分け方も違う。並べても、どちらが妥当なのか分からない。
比較の成否は、依頼した時点で決まっています。
全社に、同じものを渡す
ここが最も重要です。 渡す資料が違えば、前提の違う見積が返ってきます。
| 渡すもの | なぜ必要か |
|---|---|
| 建物の図面 | 面積や形状の前提を揃える |
| 建物診断の結果 | 劣化の状況と、補修の必要量の前提を揃える |
| 工事の範囲を示した書面 | どこまで行うかを揃える |
| 数量の拾い方の指定 | 単位と区分を揃える |
| 提出の様式 | 項目の並びを揃える |
5番目が効きます。 見積書の様式をこちらから指定すると、比較が一気に楽になります。項目の並びが同じであれば、横に並べて差を見られます。
設計監理方式では、設計図書がこの役割を果たします。 責任施工方式では、組合の側で共通の条件を作る必要があります。
「数量・単位・単価を記載してください」と最初に書いておく。
後から分解を依頼するより、はるかに手間が減ります。
何社に依頼するか
3社程度が目安です。 2社では判断の基準が作れず、多すぎると比較と対応の負担が大きくなります。
大規模修繕では、各社が現地調査を行います。 社数だけ立ち会いの日程が必要になるため、委員会の負担も考慮してください。
選定の母数をどう作るかも論点です。
- 管理会社からの紹介
- 設計コンサルタントからの紹介
- 組合が独自に探す
- 仲介する窓口を使う
1社だけの紹介経路に依存すると、実質的に選択肢が絞られます。 経路を分けておくと、比較の意味が出ます。
選定の過程を、住民に説明できる形にする
理事にとって、金額の妥当性と同じくらい重要なのが、この点です。
工事が終わった後、「なぜあの会社になったのか」を必ず聞かれます。そのとき、説明できる記録が要ります。
- 何社に依頼したか
- どういう基準で選んだか
- 各社の見積を、どう比較したか
- なぜその会社を選んだか
「最も安かったから」だけでは、説明として弱くなります。 安い理由が範囲の狭さだった場合、後から追加が出て、結果的に高くなることがあります。
比較表を作り、議事録とともに残してください。 これが、後の説明の材料になります。
比較の手順
1. 工事の範囲が、全社で一致しているかを確認する2. 数量の拾い方に、大きな差がないかを確認する3. 共通仮設費・諸経費の計上方法を揃える4. そのうえで、項目ごとに金額を並べる5. 差が大きい項目について、各社に理由を聞く
5番目をやってください。 差そのものより、その理由の説明が判断材料になります。
「その工法は不要だと判断した」「この部位は数量を多めに見た」。根拠のある差は、納得できます。 根拠を説明できない差は、そこに疑問が残ります。
価格以外に見るもの
同じ条件で揃えたうえで、次を見てください。
- 現地調査を、どれだけ丁寧に行ったか
- 質問への回答が、具体的か
- 工程と住民への配慮を、どう説明したか
- 工事中の窓口と体制が明確か
- アフターの内容が書面で示されているか
3番目は、大規模修繕に固有の観点です。 住民が住んだまま工事が進むため、説明と配慮の姿勢が、そのまま工事中の苦情の量に影響します。
断りの連絡
選ばなかった会社にも、連絡してください。
現地調査と見積の作成に、相応の時間をかけてもらっています。曖昧なまま連絡を絶つのは、望ましくありません。
理由を詳しく説明する必要はありません。「他社に決定しました」で十分です。
この連絡が負担であれば、代行を頼むこともできます。 理事の負担を減らす部分として、検討する余地があります。
総会に向けて
比較の結果を、総会の資料にまとめてください。
- 依頼した会社と、その経路
- 各社の見積の概要(範囲、金額、特徴)
- 選定の基準
- 選んだ理由
この4点があれば、議案の説明ができます。 そして、反対意見が出たときの答えにもなります。
※ 本記事は一般的な整理です。適切な進め方は建物の条件と組合の体制によって変わります。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 相見積もり | 複数の会社から見積を取り、比較すること。 |
| 設計図書 | 工事の内容を示す図面と仕様書。見積の共通の前提になる。 |
| 建物診断 | 建物の劣化の状況を調べる調査。 |
| 共通仮設費 | 現場事務所、仮設設備など、工事全体に共通してかかる仮設の費用。 |
| 数量拾い | 図面や現地から、工事の量を算出すること。 |