見積書が届いた。総額は分かるが、それが妥当なのか判断できない。
理事が最初に行き詰まるところです。そして多くの方が、相場の数字と総額を比べようとします。
ここに落とし穴があります。 比べる前に、それぞれが何を含んだ金額なのかを確認する必要があります。
公的調査の金額は「直接工事費」
国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」の工事金額は、直接工事費として集計されています。
そして、次のものは含まれていません。
- 共通仮設費
- 現場管理費
- 一般管理費
- 消費税相当額
つまり、調査の数値と見積書の総額を直接比べることはできません。
見積の総額には、上記が加算されています。当然、調査の数値より大きくなります。
「相場より高い」という誤解の、最も多い原因がこれです。
見積書の中から直接工事費にあたる部分を取り出し、その金額で比較する。
総額どうし、あるいは直接工事費どうし。 混ぜて比べると判断を誤ります。
見積書の構成
一般的な工事の見積は、次のような構成になっています。
| 区分 | 内容 |
|---|---|
| 直接工事費 | 実際の工事にかかる費用(材料・施工の手間) |
| 共通仮設費 | 現場事務所、仮設トイレ、安全対策など |
| 現場管理費 | 現場の運営・管理にかかる費用 |
| 一般管理費 | 会社の運営にかかる費用の配賦 |
| 消費税 | — |
下の3つは、作業そのものではありません。 しかし不当な項目ではなく、必要な費用です。
むしろ、これらを極端に低く計上している見積のほうが注意が必要です。どこかで帳尻を合わせる必要があるため、後から追加が出るか、管理が手薄になります。
数量・単価・単位が並んでいるか
内訳を見るときの基本です。
| 欄 | 何が書かれているか |
|---|---|
| 工事項目 | 何をする工事か |
| 数量 | どれだけの量か |
| 単位 | ㎡、m、箇所、式など |
| 単価 | 1単位あたりの金額 |
この4つが揃っていれば、確認すべき場所がはっきりします。
- 数量は、建物の実際と合っているか
- 単価は、他社と比べてどうか
- 単位の取り方が、他社と揃っているか
揃っていない見積は、比較にも交渉にも使えません。
「一式」は分解を依頼する
金額の大きい項目が「一式」とだけ書かれている場合、分解を依頼してください。
依頼の仕方は「安くしてください」ではありません。「この項目の数量と単価を教えてください」と聞くだけです。
出せる会社はすぐ出します。 出せない、あるいは渋る場合、現地を十分に見ていない可能性があります。
少額の付帯作業を一式でまとめるのは、通常の書き方です。 問題は、金額の大きい項目が一式になっているときです。
数量が妥当かを見る
単価が安くても、数量が多ければ総額は増えます。
外壁の下地補修は、劣化の程度によって数量が変わる項目です。ひび割れの長さ、欠損の面積、タイルの浮きの枚数。
- 診断の結果と、見積の数量が対応しているか
- 各社の数量が、大きく違っていないか
- 実際の数量が確定するのはいつか
3番目が重要です。 下地補修は、足場を組んで調査してから確定することがあります。この場合、見積の段階では想定の数量です。
「実際の数量で精算する」という契約になっているかを確認してください。 想定より少なければ減額されるのか、そのままなのか。ここが後の追加費用に直結します。
各社の見積を比べるとき
- 工事の範囲が、全社で一致しているか
- 数量の拾い方が、同じ前提か
- 単位の取り方が揃っているか(㎡と式が混在していないか)
- 共通仮設費・諸経費が、どこに計上されているか
- 消費税の扱い(税込か税抜か)
- 数量の増減があった場合の精算方法
4番目に注意してください。 ある会社は諸経費を独立の項目にし、別の会社は各工事の単価に含めている、ということがあります。この場合、項目ごとの単価を比べても意味がありません。
共通の仕様書があると、この問題が減ります。 設計監理方式が比較に向いているのは、この点によります。
分からないことは、聞いてよい
理事は建築の専門家ではありません。分からない項目があるのは当然です。
質問して、説明できるかどうかを見てください。 説明できない項目は、そもそも根拠が薄い可能性があります。
そして、その質問と回答を記録してください。 総会で住民から同じ質問が出たとき、答えられます。
※ 本記事は公表資料をもとにした一般的な整理です。見積書の書式は会社によって異なります。
出典:国土交通省「マンション大規模修繕工事に関する実態調査」
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 直接工事費 | 実際の工事にかかる費用。材料費と施工の手間。 |
| 共通仮設費 | 現場事務所、仮設設備など、工事全体に共通してかかる仮設の費用。 |
| 現場管理費 | 現場の運営と管理にかかる費用。 |
| 一般管理費 | 会社の運営にかかる費用のうち、その工事に配賦される分。 |
| 一式 | 数量と単価を分けずにまとめて計上する表記。 |
| 下地補修 | 仕上げの下にあるコンクリートのひび割れや欠損を直す工事。 |
| 精算 | 実際の数量が確定した時点で、金額を確定させること。 |