階段、手すり、扉、面格子、設備の架台。建物には、多くの鉄の部材が使われています。
そして鉄は、外壁より早く傷みます。 大規模修繕の周期を待たずに、錆が目立ってくることがあります。
塗装の質を決めるのは、塗る前の下地処理です。
対象になる部位
| 部位 | 状態が出やすい場所 |
|---|---|
| 階段の側板・段板 | 雨がかかる部分、水が溜まる部分 |
| 手すり | 支柱の根元、接合部 |
| 玄関扉の枠、面格子 | 下部、隅 |
| 設備の架台 | 屋上、地面に接する部分 |
| 消火栓箱、扉 | 開閉部、下端 |
| 配管の支持金物 | 接触部 |
共通するのは、水が溜まる場所と、他の材料と接する場所です。
支柱の根元は、特に傷みます。 床との取り合いに水が入り、内側から錆びます。外から見ると健全でも、根元で断面が減っていることがあります。
錆が進む仕組み
塗装は、鉄を空気と水から隔てる膜です。 その膜が切れると、そこから錆びます。
- 塗膜に傷が入る、劣化して薄くなる
- 鉄が空気と水に触れ、錆が発生する
- 錆は膨張し、周囲の塗膜を押し上げる
- 剥がれた部分から、さらに錆が広がる
この連鎖が、放置すると加速します。
そして、錆を残したまま上から塗っても止まりません。 塗膜の下で進行し続けます。
ケレンが、寿命を決める
塗る前に錆を落とす作業を「ケレン」といいます。
この作業の程度で、塗装の持ちが変わります。
| 程度 | 内容 |
|---|---|
| 軽い | 浮いた錆や旧塗膜を、工具で落とす |
| 中程度 | 錆と劣化した塗膜を、しっかり除去する |
| 入念 | 素地が出るまで落とす |
費用の差は、この作業の手間の差です。
見積で「鉄部塗装 ◯㎡」としか書かれていない場合、ケレンの程度が分かりません。 どの程度の下地処理を行うのかを確認してください。
そして、ここが省かれると、次の修繕まで持ちません。 数年で錆が出てきます。
ケレンが不十分でも、塗装した直後はきれいに見えます。
差が出るのは、数年後です。 だから見積の段階で確認する必要があります。
塗装で済むか、更新が必要か
錆が進みすぎると、塗装では対応できません。
| 状態 | 対応 |
|---|---|
| 表面的な錆 | ケレンして塗装 |
| 錆が深い、断面が減っている | 部分的な補強、または更新 |
| 穴が空いている | 更新 |
| 手で押すと動く、ぐらつく | 安全に関わる。更新を検討 |
4番目は、優先度が上がります。 手すりがぐらつく状態は、人が体重をかけたときに事故になり得ます。
更新すると費用は上がりますが、塗装を繰り返しても状態は戻りません。 診断の結果にもとづいて判断してください。
アルミやステンレスは、扱いが違う
すべての金属を塗装するわけではありません。
- アルミ — 錆びにくい。通常は塗装しない
- ステンレス — 錆びにくい。清掃や研磨で対応する
- 鋼製(鉄) — 塗装が必要
建物によっては、手すりがアルミに更新されていることがあります。この場合、塗装の対象から外れます。
見積で、対象の部位と材質が整理されているかを確認してください。 塗らない部材が計上されていないかを見る、という観点です。
周期が、外壁より短い
鉄部は、外壁の周期より早く傷みます。
そのため、大規模修繕の間に、鉄部だけを塗装するという考え方があります。
- 足場が要らない範囲であれば、単独で施工できる
- 錆が広がる前に手を入れられる
- 次の大規模修繕での作業量が減る
手が届く範囲の鉄部は、足場なしで塗装できます。 階段の手すり、共用廊下の扉、設備の架台。日常の管理の延長として対応できる部分です。
長期修繕計画に、鉄部の中間塗装が含まれているかを確認してください。 含まれていない場合、計画の見直しの際に検討する余地があります。
工事中の影響
- 階段や手すりが、一時的に使えない
- 塗りたての部分に触れないよう、注意が要る
- 臭気が出ることがある
- 扉の開閉ができない時間帯がある
1番目と4番目は、生活に直接影響します。 特に階段は、代替の経路があるかを確認してください。 一方通行にする、時間帯を分けるといった運用が要ります。
高齢の住民や、車椅子を使う住民がいる場合、事前の個別の相談が必要です。
※ 本記事は一般的な整理です。適した処理は部材の状態によって変わります。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 鉄部塗装 | 鋼製の部材に対して行う塗装。錆の進行を防ぐ。 |
| ケレン | 塗装の前に、錆や劣化した塗膜を除去する作業。 |
| 素地 | 塗装の下にある、部材そのものの表面。 |
| 塗膜 | 塗装によって形成される膜。 |
| 架台 | 設備を載せるための台。屋上などに設置される。 |
| 中間塗装 | 大規模修繕と大規模修繕の間に行う、部分的な塗装。 |