外壁や防水は、劣化が目に見えます。配管は見えません。
そして、問題が表面化するのは漏水が起きたときです。それは階下への被害という形で現れます。
そのうえ、この工事は住戸の中に入ります。 大規模修繕の中で、最も合意形成が難しい工事です。
共用部と専有部の線引き
ここが最初の論点です。
| 部分 | 一般的な扱い |
|---|---|
| 縦管(各階を貫く共用の管) | 共用部 |
| 住戸内の枝管 | 管理規約による。専有部とされることが多い |
| パイプスペース内の管 | 共用部とされることが多い |
管理規約に定めがあります。 必ず確認してください。
問題は、共用部だけを更新しても、専有部の管が古いまま残るという点です。
- 更新した部分と、していない部分がつながる
- 古い枝管から漏水が起きれば、階下に被害が出る
- 個別に工事すると、そのつど住戸に立ち入ることになる
そのため、専有部も含めて一体で工事するかどうかが、大きな判断になります。
更新と更生
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 更新 | 既存の管を撤去し、新しい管に取り替える |
| 更生(ライニング) | 既存の管の内側を清掃し、樹脂などで被膜を作る |
更新は、根本的な解決です。 新しい管になるため、その後の期間が長くなります。ただし、壁や天井を壊す範囲が広くなります。
更生は、工事の規模が小さくなります。 既存の管を使うため、解体の範囲が限られます。ただし、管そのものは古いままです。
どちらが適しているかは、管の材質と劣化の状態によります。 更生ができない状態まで進んでいる場合もあります。
調査の結果にもとづいて判断してください。 内視鏡や抜管による調査で、内部の状態を確認できます。
住戸に立ち入る工事の難しさ
これが、この工事の最大の課題です。
- 全戸で、作業日に在宅してもらう必要がある
- 水が使えない時間帯が発生する
- 壁や天井を壊し、復旧する
- 家具の移動が必要になる
- 賃貸に出している住戸では、入居者の協力が要る
5番目が特に難しい部分です。 区分所有者が合意しても、実際に住んでいるのは賃借人です。連絡と調整が二重になります。
空室、長期不在、連絡が取れない住戸があると、そこだけ工事ができません。
この調整に、相当な時間がかかります。 工事そのものより、日程の調整のほうが難しいことがあります。
賃貸に出している住戸がどれだけあるか、連絡が取れる状態か。
アンケートや管理組合の名簿で、事前に確認しておくと計画が立てやすくなります。
大規模修繕と同時に行うか
判断が分かれる部分です。
| 同時に行う | 別に行う | |
|---|---|---|
| 住民の負担 | 一度で済む | 二度の工事に耐える |
| 費用 | 諸経費を共有できる | それぞれにかかる |
| 工期 | 長くなる | 分散する |
| 合意形成 | 議案が複雑になる | それぞれで議論できる |
| 資金 | 一度に大きな額が要る | 分散できる |
4番目に注意してください。 外壁の工事と配管の工事を1つの議案にすると、どちらかへの反対が、両方を止めます。
分けて議案にするという設計もあります。 ただし、その場合は総会が2回に分かれる可能性があります。
共通するのは、足場とは無関係だという点です。 配管の工事に足場は要りません。したがって「足場があるうちに」という理由では、同時に行う必然性はありません。
長期修繕計画での位置づけ
配管の更新は、金額の大きい項目です。
長期修繕計画に含まれているかを確認してください。含まれていない場合、その分の資金が計画されていないことになります。
- 計画に、給排水設備の更新が入っているか
- 想定されている時期はいつか
- 想定されている金額はいくらか
2回目・3回目の大規模修繕の時期に、この項目が出てきます。 1回目は外壁中心でも、回を重ねるごとに設備の更新が加わります。
計画の見直しのときに、この点を確認してください。
先送りしたときのリスク
- 漏水が発生し、階下の住戸に被害が出る
- 被害の補償をめぐって、責任の所在が問題になる
- 赤水や水圧の低下といった、日常の不具合が出る
- 排水の詰まりが頻発する
- 更生では対応できない状態まで進行する
1番目と2番目は、住民同士の問題になります。
漏水の原因が共用部の管であれば管理組合の責任、専有部の管であれば区分所有者の責任、という形で切り分けが必要になります。その判断自体が争いになることがあります。
保険の適用も論点になります。 管理組合が加入している保険の内容を、事前に確認しておいてください。
※ 本記事は一般的な整理です。共用部と専有部の区分は管理規約によって変わります。適した工法は管の状態によって判断されます。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 縦管 | 建物の各階を貫いて通る、共用の配管。 |
| 枝管 | 縦管から各住戸へ分岐する配管。 |
| 更新 | 既存の管を撤去し、新しい管に取り替えること。 |
| 更生(ライニング) | 既存の管の内面に被膜を作り、再生させる工法。 |
| パイプスペース | 建物の配管を通すために設けられた縦方向の空間。 |
| 赤水 | 配管の錆により、水が赤茶色になる現象。 |