工事が始まってから、追加の作業を求められる場面があります。
求める側は3つに分かれます。施工会社、住民、そして理事自身です。
共通しているのは、その場で判断を迫られるという点です。そして、管理組合はその場で決められる立場にありません。
3つの発生源
| 発生源 | 内容 |
|---|---|
| 施工会社からの提案 | 開けてみたら劣化が進んでいた、この機会にやるべき |
| 住民からの要望 | ついでにここも、うちのバルコニーも |
| 理事・委員会の判断 | 検討中に、やはり必要だと考えた |
それぞれ、扱いが違います。
① 施工会社からの提案
必要性がある場合が多く、最も判断が難しい部分です。
「足場があるうちにやったほうがよい」という提案は、構造としては正しいことがあります。次回また足場を組むより合理的だからです。
ただし、確認すべきことがあります。
- なぜ必要なのか、根拠は何か
- 写真などの記録があるか
- 金額の根拠(契約時の単価が使われているか)
- 工期への影響
- 今回やらない場合、どうなるのか
5番目を必ず聞いてください。 「次回でも問題ない」のか、「今やらないと悪化する」のか。この違いで判断が変わります。
そして、その場で即答しないでください。 書面で報告を受け、理事会で判断する。この手順を、契約の段階で決めておいてください。
② 住民からの要望
最も注意が必要なのが、この形です。
工事中、住民が現場の職人に直接依頼するということが起こります。
- 「ついでにうちのバルコニーも」
- 「この手すりも塗ってもらえないか」
- 「ここも直してほしい」
職人は、目の前で頼まれると断りにくい立場です。そして作業してしまうと、その費用がどこかに乗ります。
さらに問題なのは、公平性です。
一部の住民の要望だけが通ると、他の住民から「なぜあの人だけ」という話になります。 費用は全員の積立金から出ています。
対策
1. 工事の前に、住民へ周知する(現場への直接依頼はしないこと)2. 要望の窓口を、理事会または管理会社に一本化する3. 施工会社にも、直接依頼を受けないよう伝えておく4. 契約に、追加は組合の承認を経てから着手する旨を入れる
3番目を、契約の段階で伝えてください。 職人が断る根拠になります。
③ 専有部の要望をどう扱うか
住戸内の工事は、原則として組合の費用では行いません。
- バルコニーの床(専用使用部分)の扱い
- 玄関扉の内側
- 住戸内の設備
管理規約で、どこまでが共用部かを確認してください。
個人負担で同時に施工するという選択肢はあり得ます。足場があるうちに行えば、個人にとっても効率的です。
ただし、その場合は費用の負担と手続きを明確にしてください。
- 誰が発注するのか(組合か、個人か)
- 費用を誰が払うのか
- 不具合が出た場合、誰が対応するのか
- 他の住民にも、同じ機会を案内するか
4番目が重要です。 一部の住民だけに案内すると、不公平の問題になります。
承認の手順を、先に決める
工事中に総会は開けません。 そのため、誰がどこまで承認できるかを事前に決めておく必要があります。
| 金額の規模 | 承認 |
|---|---|
| 少額 | 理事長または担当理事が判断し、理事会に報告 |
| 中程度 | 理事会で判断 |
| 大きい | 臨時総会 |
この区分を、総会の議案に含めてください。 「工事に伴う変更は、一定の範囲内で理事会に一任する」という形です。
範囲を金額で示すと明確になります。 曖昧だと、後から「理事会が勝手に決めた」と言われます。
記録する
受けた場合も、断った場合も、記録してください。
- いつ、誰から、どんな要望があったか
- どう判断したか
- その理由
断った要望こそ、記録が要ります。 後から「あのとき言ったのに」と言われたとき、検討して判断した記録があれば答えられます。
- 現場で職人に直接依頼され、そのまま作業された
- 一部の住民の要望だけが通り、不公平の問題になった
- 承認の権限が曖昧で、誰が決めたか分からない
- 口頭で合意し、後から請求が来た
- 断った要望の記録がなく、後で蒸し返された
1番目を防ぐには、工事前の周知しかありません。 始まってから伝えても遅くなります。
断り方
すべての要望を受ける必要はありません。
- 「共用部の工事の範囲外です」
- 「個人のご負担であれば、施工会社にお取り次ぎできます」
- 「一度、理事会で検討します」
3番目が最も無難です。 その場で断らず、手順に乗せる。判断を持ち帰ることは、逃げではありません。
※ 本記事は一般的な整理です。共用部と専有部の区分は管理規約によって変わります。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 追加工事 | 当初の契約範囲に含まれない工事。 |
| 専用使用部分 | 共用部でありながら、特定の住戸が独占的に使用できる部分。 |
| 臨時総会 | 必要に応じて、通常総会とは別に開催される集会。 |
| 指示系統 | 誰の指示で作業を行うかという経路。 |
| 管理規約 | 管理組合の基本的なルールを定めたもの。 |