工事が終わり、足場が外れ、総会で報告した。理事としての役目は、ほぼ終わりです。
残っている作業が、ひとつあります。
記録を整理して、残すことです。
これは、今回のためではありません。 10年以上先の、次の理事のための作業です。
なぜ、これが必要なのか
次回の検討を始める理事は、次の質問から入ります。
- 前回はいつ、何をしたのか
- いくらかかったのか
- どんな劣化があったのか
- 何を使ったのか
- どこに問題があったのか
記録がなければ、どれも答えられません。
そして、すべてをゼロから調べ直すことになります。 診断も、比較も、判断も、前回の蓄積なしに行うことになります。
多くの管理組合が、この状態にあります。 「前回の資料が見つからない」というのは、珍しいことではありません。
残すもの
| 分類 | 具体的なもの |
|---|---|
| 診断 | 建物診断の報告書、調査の結果 |
| 検討の経緯 | 理事会・委員会の議事録、比較表 |
| 選定 | 依頼した会社、評価の基準、選定の理由 |
| 契約 | 契約書、設計図書、仕様書、見積の内訳 |
| 工事 | 記録写真、施工の報告書、変更の記録 |
| 費用 | 実際にかかった金額と内訳、追加の内容 |
| 保証 | 保証書、取扱説明書、点検の予定 |
| 住民対応 | 出た意見・苦情と、その対応 |
| 総会 | 議案と議事録 |
5番目と6番目が、次回に最も効きます。
前回どこをどう補修したかが分かれば、今回の劣化の進行が判断できます。 そして、実際にかかった金額は、次の長期修繕計画の根拠になります。
8番目も残してください。 どんな苦情が出て、どう対応したか。次回の準備がまったく変わります。
保管の方法を決める
最も多い失敗は、散逸です。
- 理事長の自宅に置かれ、交代のたびに移動する
- 複数の場所に分かれている
- 電子データの保存先が分からなくなる
- 引き継ぎのときに、一部だけが渡される
対策
1. 保管場所を一箇所に決める(管理室、または管理会社)2. 一覧を作る(何がどこにあるか)3. 電子化できるものは、電子化する4. 保存先を、複数用意する5. 引き継ぎ書に、保管場所を明記する
2番目が実務的です。 「大規模修繕(実施年)一式」という箱を作り、中身の一覧を表紙に貼る。 それだけで、次の理事が探せます。
3番目も検討してください。 紙は劣化し、場所を取ります。電子化しておくと、引き継ぎも共有も楽になります。
ただし、原本の扱いについては管理規約や実務の運用によります。 確認してください。
長期修繕計画に反映する
工事が終わったら、計画を更新してください。
- 実施した内容と、その時期
- 実際にかかった金額
- 計画との差と、その理由
- 次回の想定時期
3番目が重要です。 計画上の金額と実績が違った場合、その差は次回の計画にも影響します。
そして、次回以降の想定も見直してください。 回を重ねるごとに、周期は短くなり、設備の更新が加わります。
この見直しを行わないと、次の理事がまた古い計画を見ることになります。
積立金の水準も、確認する
工事の後は、残高が大きく減っています。
- 現在の残高
- 次回までの積立の見込み
- 次回の想定費用
- 不足が生じるか
不足が見込まれるなら、この時点で共有してください。
工事の直後が、最も説明しやすい時期です。 何にいくらかかったかを、住民が実感しています。
「次回に向けて、月々の積立を見直す必要があります」という説明が、最も通りやすいタイミングです。
総会で報告する
工事の完了を、総会で報告してください。
- 実施した内容
- 実際の費用と、予算との差
- 追加が発生した場合、その内容と理由
- 出た問題と、その対応
- 保証の内容と期間
- 次回に向けた課題
2番目と3番目を、明確に報告してください。 予算との差は、必ず確認されます。
6番目を入れることに、意味があります。 「今回はここが課題だった」と残しておけば、次の検討の出発点になります。
次の理事へ
引き継ぎ書に、次を書いてください。
- 工事が完了した時期と、内容
- 記録の保管場所
- 保証の期間と、点検の予定
- 長期修繕計画を、次にいつ見直すか
- 積立金について、検討が必要なこと
3番目と4番目には、期限があります。 引き継がれないと、保証を使わないまま期間が過ぎ、計画の見直しも行われません。
記録は、判断を守るためのもの
このメディアの記事で、繰り返し書いてきたことがあります。
理事が最終的に問われるのは、「なぜこうなったのか」です。
金額の妥当性でも、工事の出来でもなく、判断の過程を説明できるかどうかです。
記録は、そのための道具です。
そして、その記録は次の理事も守ります。 前回の判断の根拠が残っていれば、今回の判断も、その延長として説明できます。
理事は交代します。 しかし、建物と管理組合は続きます。
今回の記録を残すことは、その連続性を保つ作業です。
- 前回の内容が分からず、診断からやり直す
- 実際の費用が不明で、計画の精度が上がらない
- 前回の劣化と比較できず、進行が判断できない
- 同じ苦情に、同じ対応を繰り返す
- 保証が残っているのに、使わないまま期間が過ぎる
※ 本記事は一般的な整理です。保管の方法は管理規約と実情によって変わります。
大規模修繕LaBoは、建築士による建物診断から、自社職人による施工・検査・アフターまで一貫して行う大規模修繕サービスです。他社のお見積書の確認もお気軽にご相談ください。現地調査・お見積りは無料です(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 長期修繕計画 | 将来の修繕内容・時期・費用を見通した計画。 |
| 建物診断 | 建物の劣化の状況を調べる調査。 |
| 設計図書 | 工事の内容を示す図面と仕様書。 |
| 記録写真 | 工事の各段階を撮影した写真。品質と数量の確認に使う。 |
| 修繕積立金 | 将来の修繕に備えて、区分所有者から毎月集める資金。 |