この記事の結論
- 建物診断の費用について、国土交通省のガイドライン・マニュアル・実態調査には金額の目安が示されていません。費用は、建物の規模、診断のレベル、足場やゴンドラの要否、設備まで調べるかどうかで変わります。
- 国土交通省のマンション改修マニュアルは、診断を長期修繕計画で予定した工事の2年程度前に行うことが望ましいとしています。時間がかかるのは調査そのものより、依頼先選び・予算の決議・説明会といった前後の段取りです。
- 依頼先は、設計事務所などの専門家、施工会社、管理会社が一般的です。費用の出方と、工事の量を誰が決めるかが違います。比べた内容と選んだ理由を議事録に残します。
「建物診断はいくらかかるのか」。理事会で最初に出る質問ですが、答えは建物ごとに大きく変わります。この記事では、公的な資料で確かめられる範囲で、費用を動かす条件、時間の組み立て方、誰に頼むかを整理します。
診断で調べる項目と報告書で見る点は、建物診断・劣化調査は何を見るのかで扱っています。
公的な資料に、金額の目安はない
国土交通省の長期修繕計画作成ガイドラインとマンション改修マニュアルは、診断の進め方や時期を示していますが、診断費用の金額は示していません。同省の「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」も、設計コンサルタントの業務を金額ではなく業務量(人・時間)で集計しています。
その実態調査では、設計コンサルタントの業務量のうち「調査・診断」が占める割合は全体で15.0%でした。工事の回数別では1回目15.2%、2回目17.6%、3回目以上11.6%で、回によって比重が変わります。
(出典:国土交通省「令和3年度マンション大規模修繕工事に関する実態調査」≪3≫②、業務量は技術者の単価に応じた重みを加えて算出、2026-10-22 確認)
金額の相場が公表されていない以上、同じ条件で複数の見積を取り、条件ごとに比べることが判断の根拠になります。そのために、何が費用を動かすのかを先に押さえておきます。
診断のレベルで、手間が変わる
ガイドラインのコメントは、調査・診断のレベルを次のように分類しています。
| レベル | 主な目的 | 主な調査方法 |
|---|---|---|
| 予備調査・診断 | 現状把握、本調査・診断の要否 | 資料調査、目視調査、アンケート調査 |
| 1次診断(簡易診断) | 現状把握、劣化の危険性の判断 | 資料調査、目視調査、軽微な機器 |
| 2次診断(詳細診断) | 劣化の危険性の判断、修繕の要否の判断 | 非破壊試験、微破壊試験 |
| 3次診断(詳細診断) | より詳細な診断、評価 | 局部破壊試験を伴う |
(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」令和6年6月改定、第3編第2章第2節4のコメント(建築研究所の技術マニュアルに加筆した表)、2026-10-22 確認)
同じコメントは、長期修繕計画の見直しのために単独で行う診断は、著しい劣化がないかぎり目視調査など簡易なものにとどまり、修繕工事のために行う診断は、劣化の状況に応じて目視から非破壊試験、破壊試験へと詳しくなるとしています。見積を頼むときは、どのレベルの診断を、どの部位で、何か所行うのかを書き出して、各社にそろえて伝えます。
費用を動かす条件
| 条件 | 費用が変わる理由 |
|---|---|
| 建物の規模(戸数・延べ面積・棟数・階数) | 調べる面積と箇所数が増える |
| 診断のレベル | 試験を伴うと、手間と補修の箇所が増える |
| 足場・ゴンドラなどの要否 | 外壁に触れて調べる範囲を広げるほど、届く手段が要る |
| 設備まで調べるか | 給排水管などは、断水や住戸への立入りの段取りが加わる |
| 手元の資料の整い具合 | 図面や修繕の履歴がないと、確かめる作業が増える |
| 報告書に求める内容 | 補修の数量の算出や、長期修繕計画の見直しまで含めるか |
下の2つは、管理組合の側で動かせる条件です。ガイドラインのコメントは、新築時の設計図書、過去の工事の図面や書類、法定点検等の報告書、過去の調査・診断の報告書などが整っていると、専門家の作業が軽減され、負担する費用が削減できるとしています。
(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」第3編第2章第1節3「設計図書等の保管」のコメント、2026-10-22 確認)
外壁を全面的に叩いて調べる打診は、足場やゴンドラがないとできません。全面打診と工事の時期の関係は、タイル外壁の調査と補修で整理しています。
診断の時期と、段取りにかかる時間
国土交通省のマンション改修マニュアルは、調査診断の時期について、資金計画や合意形成などの運営面からみて、長期修繕計画に定められた工事実施時期の2年程度前が望ましいとしています。改修工事は、準備から工事完成まで一般的に3〜5年程度を要する長期的な取組だとも書いています。
(出典:国土交通省「マンション改修マニュアル」令和8年3月改訂、第1章1.5、2026-10-22 確認)
診断にかかる日数そのものは、規模と調査の内容で変わり、公的な目安も見当たりません。期間を見積もるときは、前後の段取りを並べ、依頼先に工程表を出してもらいます。
| 段階 | 主な中身 | 時間を左右するもの |
|---|---|---|
| 依頼先の選定 | 複数の候補から提案と見積を取る | 候補の数、理事会の開催頻度 |
| 予算の決議 | 事業計画・収支予算に診断費用を入れる | 通常総会を待つか、臨時総会を開くか |
| 資料調査 | 設計図書・修繕履歴・点検報告書の確認 | 資料が揃っているか |
| 現地調査 | 目視・打診・試験、アンケート | 天候、住戸への立入りの日程調整 |
| 報告と説明 | 報告書の受領、説明会 | 指摘の量、質疑への対応 |
同じマニュアルは、調査診断に合わせて問題箇所の見学会を行うことや、診断が終わった段階で結果の説明会を開くことが重要だとしています。説明会の準備も期間に含めておきます。
理事の任期が1〜2年の組合では、診断を発注する理事と、その結果で工事を決める理事が別の人になることが多くなります。依頼の条件と比べた見積は、引き継ぎ書に添えておきます。
誰に頼むか
| 依頼先 | 費用の出方 | 確かめること |
|---|---|---|
| 設計事務所などの専門家 | 診断・設計の費用が、工事費とは別にかかる | 施工会社との関係に透明性があるか |
| 施工会社 | 専門家の費用はかからない。診断を無料とする提案もある | 診断の結果が工事の提案と一体になる点 |
| 管理会社 | 管理委託契約に含める場合と、別に契約する場合がある | 実際に調べるのは誰か、提携先との関係 |
ガイドラインのコメントは、調査・診断の業務は、管理会社との管理委託契約に含めたり、建築士事務所等と個別に契約したりする方法が採られるとしています。マンション改修マニュアルは、診断・設計と施工を分ける設計監理方式と、1社に任せる責任施工方式の利点と注意点をそれぞれ示しています。
(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」第3編第2章第2節3のコメント、「マンション改修マニュアル」第1章1.5、2026-10-22 確認)
施工会社に頼むと費用を抑えやすい一方、診断した会社が工事も受注しうる立場になります。方式の違いは責任施工方式と設計監理方式の違い、専門家の費用の見方は設計監理・コンサルタントの費用の考え方で整理しています。
費用の出どころと、決め方
マンション標準管理規約のコメントは、修繕工事の前提としての劣化診断(建物診断)の費用は、修繕工事の一環としての経費であるため、原則として修繕積立金から取り崩すとしています。長期修繕計画の作成・変更のための診断は、財産状態等に応じて管理費・修繕積立金のどちらからでも充当できます。
(出典:国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)」令和7年改正、第32条関係コメント③④、2026-10-22 確認)
ガイドラインのコメントは、修繕積立金を取り崩して行う調査・診断の費用は、事業計画(案)と収支予算(案)に含めて総会で決議する必要があるとしています。長期修繕計画の標準様式(様式第3-2号)にも「調査・診断、設計、工事監理等費用」の項目があります。手元の計画にこの行と金額があるかを確かめると、予算の話を始めやすくなります。
(出典:国土交通省「長期修繕計画作成ガイドライン・同コメント」第3編第2章第1節3「会計処理」のコメント、第1編 様式第3-2号、2026-10-22 確認)
区市町村によっては、劣化診断の費用を助成しています。たとえば東京都港区は、劣化診断に要した費用の2分の1(上限50万円)を助成し、管理組合の場合は総会で診断の実施と予算が承認されていることを条件にしています。すでに診断の契約や実施をした場合は申請できません。
(出典:港区「分譲マンション等管理支援事業」2026年5月8日更新、2026-10-22 確認)
助成を使うなら、依頼先を決める前に制度を調べます。探し方は補助金・助成制度の探し方で扱っています。
※ 本記事は、国土交通省などの公表資料をもとに一般的な考え方をまとめたものです。必要な診断の内容と費用は、建物の状態と依頼の条件によって変わります。
よくある質問
診断の費用が妥当かどうか、どう判断すればよいですか
公的な金額の目安がないため、複数の依頼先に同じ範囲・同じレベルの条件を示して見積を取り、並べて比べるのが現実的です。条件がそろっていなければ、金額の差が範囲の差なのか、単価の差なのかを区別できません。
施工会社の無料の診断で済ませてもよいですか
受けること自体は問題ありません。ただし、診断の結果がその会社の工事の提案と結びつく点を理解し、発注の義務がないこと、報告書を書面で受け取れることを最初に確かめてください。
診断から工事まで、間があいてしまったらどうしますか
劣化は進むため、診断した時点の数量と工事の時点の数量はずれていきます。間があく場合は、工事の前に補足の調査を行うかどうかを依頼先と相談し、その判断を議事録に残します。
大規模修繕LaBoは、建築士による建物診断から、自社職人による施工・検査・アフターまで一貫して行う大規模修繕サービスです。他社のお見積書の確認もお気軽にご相談ください。現地調査・お見積りは無料です(東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県)。
付録:本記事で使用した専門用語一覧
| 用語 | 解説 |
|---|---|
| 建物診断 | 建物と設備の劣化の状況を調べ、修繕の要否や内容を判断する材料を作る調査。劣化診断とも呼ぶ。 |
| 1次診断 | 資料と目視などで、劣化の状況を大まかにつかむ簡易な診断。 |
| 2次診断・3次診断 | 非破壊試験や、建物の一部を壊す試験を伴う詳しい診断。 |
| 設計監理方式 | 調査・設計と施工を、別の者が担う発注の方式。 |
| 責任施工方式 | 調査・設計から施工までを、1社に任せる発注の方式。 |
| 事業計画 | 管理組合がその年度に行う業務の計画。収支予算とあわせて総会で決める。 |